ショートショート作品 No.002

『超人』

 彼は超人的な筋力と脚力を持っていた。
 そういう訳で彼は超人だった。そういう事にしておいてもらいたい。
 彼の名は鈴木超特急。この名はダテではない。彼は生まれ落ちたその日のうちにはいはいで100m9秒70の世界新をマークした。それを見た彼の父が半ばヤケッパチでつけた名前がこれであった。
 彼はこの名前が嫌いだった。もっともな話である。
 彼は自らを「ウルトラ・スーパー・エイトマン」と呼んだ。彼は頭が足りなかった。
 彼は日夜人々の為に文字通り走りまわった。
 西に信号が渡れなくて困っているお婆さんがいれば行って車を蹴り飛ばし、東北沢に開かずの踏切で困っているご隠居がいれば行ってロマンスカーを蹴り飛ばした。
 彼は自分が「走る迷惑」と呼ばれている事に気付かなかった。
 彼は世界中を駆けめぐった。
 ある時彼は困っている人を見付けるのがだんだん困難になってきているのに気付いた。日頃の自分の努力が実を結んでいるものと思い、彼はなおも駆けまわった。
 音速を越えて走るかれのまきおこす衝撃波によって、かれの通った跡にはペンペン草一本残っていなかった。


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