ショートショート作品 No.015

『撃墜王』

 蒼く澄みきった空の彼方に、銀の光がきらめいた。
 敵機だ。
 FSB−04は大きく旋回し、戦闘態勢に入った。新開発の特殊塗料が普及した今では、レーダーや誘導ミサイルなどは役に立たない。視認とドッグ・ファイト。科学の進歩により、戦術は二時代ほど逆行した様だった。
 敵機が機関砲を撃って来た。
 FSB−04は、それを難なくするりとよける。
 長距離戦闘爆撃期FS。そのB隊4番機は、撃墜王として名を轟かせていた。コックピット横に刻まれた撃墜マークは、その数29にのぼっている。コックピットにいるパイロットは、どんな気持ちで30機目を相手にしているのか。
 上空から敵機が後ろをとろうと迫って来る。
 FSB−04は一気に上昇をかけ、敵に向かって突っ込んで行く。すれちがいざま、機関砲を発射。そのまま敵機の横をすりぬけ、戦闘空域を離脱。大きく旋回して、再び今の空域にもどる。
 そこに爆煙はなかった。敵機の姿もない。見失ったのだ。
 目に映るのは空気の青。
 聞こえるのは自機の甲高いエンジン音。
 突然、コックピット・ハッチの一部が弾け飛んだ。機関砲の弾がすぐ横をかすめたのだ。破片がコックピットの中を跳ねまわり、パイロットが短い呻き声をあげた。
 敵機は真下から迫っていた。今にも後ろにまわろうとしている。旋回している時間はない。
 FSB−04は逆噴射をかけ、メイン・エンジンをカットした。
 機体は一瞬失速し、グラリと機首が下を向く。再び二機はすれちがったが、今度はとちらも機関砲を撃つ暇がなかった。
 どちらもすぐに態勢の立て直しにかかったが、スピードののっていないFSB−04の方が動作は一瞬速かった。
 旋回途中の敵機に容赦なく機関砲を浴びせる。
 敵機はたちまち炎に包まれ、爆発四散した。

 基地に帰還する途中、空軍長官から通信が入った。
「本日の勝利を祝う。パイロットは無事か。」
 FSB−04は報告する。
「残念ながらパイロットは死亡した模様。至近弾によるコックピット・ハッチ損傷の折と思われる。」
 長官は慰めるように言う。
「なに、どうという事はない。コックピットに座る人間の替わりなどいくらでもいる。貴重なのは、撃墜王の経験データだ。」
 FSB−04は答える。
「ありがとうございます。」
 そして、FSB−04の機体に、30個目の撃墜マークが刻まれた。


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