ショートショート作品 No.037

『戦争よさらば』

「ミサイルだって? 流星群じゃなかったのか?」
「今朝まではそう思ってたんだよ。太陽系外からバラバラとなだれ込んで来たんだ。普通は流星群だと思うだろう!?」
「映像で確認したら違ったってわけか。・・・しかし、ミサイルとは! しかも、太陽系外からだって!? は、は! 驚いたねこりゃ。」
「何かの冗談ならいいんだがな・・・。」
「・・・・・核か?」
「判るわけないだろう? ・・・だけど、どんな酔狂な野郎でも、ミサイルにただの花火をつめて宇宙にぶっ飛ばすとは思えないな。」
「くそっ! 一体なんだってこんな・・・。」
「答えは同じだ。判るわけがないだろう?」
「確かに太陽系外から来たのか?」
「銀河系外からかも知れないな。とにかく、何をどう考えても地球から発射されたとは思えない。」
「・・・で、コースは確かに地球に向かってるんだな?」
「ああ。少なくともいくつかは直撃するだろうな。」
「・・・何だかめまいがして来た。」
「俺はさっきから胃がねじくれてるよ。とにかく、他の観測所や天文台に照会してみてくれ。俺は所長に連絡をつける。・・・いや、大統領が先かな?」

    * * * * *

『みなさん、全国の、いえ、全世界のみなさん、遂にこの日がやってまいりました!本日、歴史は大きな、とてつもなく大きな一歩を踏み出そうとしています! それも、我々全てが長らく待ち望んだ、素晴らしい方向へと踏み出そうとしているのです!!『さあ、ご覧下さいこの光景を! 今、歴史的瞬間に向けて、準備が進められています! 何と言う眺めでしょう! ・・・申し訳ありません、わたくしの声も、興奮でやや上ずり気味のようです。しかし、許していただけると思います。なにしろ、今日という日を待ち望んでいた気持ちは、わたくしもみなさんと同じなのですから!!』

    * * * * *

「地球直撃のコースにあるのは何発なんだね?」
「はい、大統領。現在確認されているミサイルは352発。内、地球を直撃すると思われるものは67発です。しかし・・・」
「・・・まだ正確な数は判らんのだね?」
「はい。我々のレンジ内に入ってくるミサイルの数は、現在も刻々と増え続けています。最終的にどれほどの数になるかは、予想しかねます。」
「最初のミサイルが地球に命中するのはいつだね?」
「はい。10月17日午前6時18分、アジア大陸北部に着弾する見込みです。」
「あと12日・・・。しかも、陸地に落ちると言うのか!」
「はい。残る66発の内、21発が陸地に着弾する見込みです。」
「・・・迎撃は可能かね?」
「シャトルに兵器を搭載して打ち上げれば、ある程度の迎撃は可能かと思われます。しかし、地球の引力圏に入った場合のミサイルの速度を考えますと、地上からの迎撃はまず不可能です。数から言って、シャトルの迎撃能力だけではとても・・・。」
「なんということだ! SDIにもっと予算を割いていれば・・・!」
「大統領・・・。」
「・・・わかっている。すぐにシャトルを迎撃任務につかせる準備に入ってくれ。それと、全軍の首脳を集めろ。外務省にも連絡だ。他国との協力体制を作る。大至急!」
「イエス、サー!」


「・・・ええ、はい、本当です。あの記事に間違いはありません。確かな筋からの情報なんです。詳しくは、また夕刊に掲載します。はい、そうです。・・・はい、どうぞよろしく。・・・フーッ。はははっ、見ろよ、凄い反響だ。朝刊は3時間で完売だとさ。夕刊は大増刷だな!」
「ええ。だけど・・・。」
「なんだ?」
「僕には信じられないんですよ。あと10日もしたら、地球が核ミサイルでボコボコになるだなんて!」
「俺にだって、ちょっと信じられないがね。」
「だって・・・!」
「情報は確かだ。複数のソースから確認を取ってある。」
「それなら・・・、もしこれが本当なら、こんなことしてる場合じゃないんじゃないですか!?」
「それじゃ、どうしようってんだ?」
「えっ・・・。」
「この情報が本当だとすれば、俺たちがジタバタしたって何がどうなるもんでもない。情報が間違いだったら、俺たちは大恥をかくかわりに、命は助かるわけだ。どっちにしろ、俺たちがやるべきことは、新聞を売ることさ。」
「・・・・・そうですね。きっと、そうですね。」
「さ、その社説をさっさと仕上げちまえよ。早いところ入稿して、刷れるだけ刷るんだ!」

    * * * * *

『さあ、みなさん、いよいよ5分後に迫りました。歴史的瞬間まで、あと5分です!おそらく、カウントダウンはすでに始まっていることでしょう。スタッフも全て位置につき、あとはGOサインを待つばかりといった状態に見えます。
『わたくしは今、現場の雰囲気、張りつめた緊迫感と、圧縮され押えられたた歓喜のようなものをひしひしと肌で感じ、胸に沸き立つ興奮と感動に震えております! みなさん、我々はこの時代に生まれ、これから起きることをまのあたりに出来ることを感謝しなくてはならないでしょう! 今日、この日こそ、全人類の喜びの記念日となるのです!』

    * * * * *

「ママ、ママ!」
「どうしたのさっちゃん。またひろくんとケンカしたの?」
「ね、わたしたちみんな死んじゃうの? ママも、みちこ先生もみんな死んじゃうの?ね、ほんと? ママ!」
「さっちゃん・・・。」
「ひろくんがね、ひろくんが、もうすぐミサイルがいっぱい落ちてきて、ぜんぶ焼けちゃって、みんな死んじゃうって。ほんと? ママ、ほんと!?」
「さっちゃん、ほら、涙ふいて。大丈夫、きっとそんなことにはならないわよ。ひろくん、きっと誰かに変なこと教えられたのよ。ね、ママがついてるわ。」
「ママ・・・。」
「大丈夫。何かあっても、みんな一緒だもの。さっちゃんにはずっとママがついてるわ。大丈夫・・・。」


「見えた! 光ったぞ!」
「ほんとか? どれ、見せろよ。」
「よせよ、もう終わっちまった。ビデオにバッチリ録れてるはずだから、あとでゆっくり見られるよ。」
「ちぇっ、俺も貯金はたいて望遠鏡買っとくんだったな。」
「どうせもうどの店も売り切れだ。見ろよ、そこでも、あそこでも同じことやってやがる。考えることはみんな同じだ。シャトルの最後の活躍だからな。見ておきたいと思うのが人情ってもんか。」
「そうだよ。だから、ほれ、今録ったやつ、早く見せろよ。」
「待てってば。まだ第2弾があるかもしれないだろ? 録りのがしたくないからな。」
「ふん、ビデオ・・・か。これだけ苦労して録っても数日で蒸発しちまうんじゃ、あんまり意味がないような気もするなぁ。」
「なに、趣味ってのは、もともとそういうもんだ。」


「うるせーな! 眠れないぞ!」
「うるせーのはそっちだ! 眠りたかったらもうすぐ嫌ってほど眠れるんだぜ。今から寝るなんてアホのするこった!」
「なにい?」
「お前さんもそんな辛気臭い顔して窓から顔出してねーで、こっち来て仲間に入れよ!」
「ええ?」
「ボケた声出してんじゃねーよ。あの世にはたいして面白いことはねーかもしれねーぞ!」
「はあ・・・。」
「ほら、酒もつまみも山ほどあるぞ。豪勢なもんだ!」
「はあ、それじゃ・・・。」
「おう、よし、来たな。まあ飲め。ほら、これ持って。ほれ。うん、わはは! 人類みな兄弟!!」


「なんだか夢を見てるみたい・・・。」
「僕もだ。今日という日が本当に来るなんてね。」
「神父様、いらしてくれて良かったわ。突然押しかけたのに、私たちのために時間をさいて下さって。」
「ごめんよ。指輪も何にもなくて。」
「うふふっ、決めたのゆうべですもんね。当り前よ。」
「だけど僕は、君といられるだけで、その、なんて言うか・・・、満足だよ。」
「ん、私も・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・静かね。」
「うん。」
「あ、あれ・・・。」
「え?」
「ほら、あれ。もしかして・・・。」
「どこ?」
「ほら、あそこ。きっと・・・、あ、そう。来るわ!」
「はっ!」
「ねっ!?」
「う、わぅ





















    * * * * *

『・・・1、0!! みなさん、ご覧下さい! 今、まさに世紀の一瞬です! 無数の炎が空に吸い込まれて行きます! 忌まわしい過去を象徴する、忌まわしいものたち。今それが、はるか宇宙の彼方へ飛び去って行くのです! ミサイルたちは、何ものにも衝突することなく我らがアンドロメダ銀河を抜け、外宇宙へ飛び去るように計算されて発射されています。もう、アンドロメダ銀河の中で、ミサイルによる核爆発が起きることはないのです!
『我々は今、確実に一歩、時の階段を登りました。もう、我らが惑星マリスには、核ミサイルは1基もないのです!
『さらば、忌まわしき歴史の落とし子たちよ! さらば、破滅の恐怖を背負った悪魔の武器よ! さらば! さらば! 戦争よ、さらば!!』


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