ショートショート作品 No.042

『王様の一日』

 ピロ国の王様ヘモ一世は、その卓越した政治手腕によって全ての国民から大きな信頼と尊敬を得ている。今日も今日とて王様は、精力的に国内情勢の視察に出かけた。
 王様が国民広場にさしかかると、そこでは十歳くらいの少年が憲兵に引き立てられて、銃殺刑に処されるところだった。それを見て王様は眉を寄せた。
「これ、内務大臣。あれは、どういうことか?」
「は、あれなる少年は野良犬を足蹴にしたため、銃殺されるところでございます」
「なぜ、そのようなことになるのか?」
「は、三月ほど前に王様がそのような法律を作られましたので」
「おお、そうであったか。よし、その法律は廃止じゃ。今日から犬を蹴った者は百叩きとする」
「ははっ、かしこまりました」
 少年は銃殺を免れ、母親共々涙を流して王様に感謝した。誰よりも慈悲深い王様は、その様子を見て満足した。

 王様が城へ戻ると、勘定大臣から国家の財政について報告があった。収支は悪化し、国家借入金もとっくに年間GNPを越えて、四百兆ヘッチャに達しているという。有能な王様は冷静にそれを聞き、即座に対応策を打ち出した。
「よし、税率を上げよう」
「おお、それは良いお考えです。さすがは王様」
 税率はもう三ヶ月も上げていないのだ。勘定大臣は恐れ入って引き下がった。
 次に進み出たのは福祉大臣だった。下町では、いくら働いても充分な食料を買うことが出来ず、困窮して栄養失調になる者が続出しているとの報告である。辣腕家たる王様はそれを聞くやいなや、またしても即座に対応策を案出した。
「よろしい。下町で最高級のキャビアとフォアグラを配給せよ。国民の健康こそ国家の大事だ」
「素晴らしいお考えです」
 慈悲深い王様の考えに感服しつつも、勘定大臣はおずおずと進み出た。
「しかし王様、現在の財政状態では予算がございませんが」
 王様はニッコリ笑うと、鷹揚にうなずいた。
「心配いらん。国債を発行しておけ」
 確かに、国債はもう五日も発行していない。大臣一同は、みな恐れ入って頭を下げた。
「ははっ、さすがは王様」


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