【本の感想】

『死の蔵書』

 水準以上、とでも言えばいいのかな。とくに感動もしなかったし、満足には程遠いし、納得できない部分も多々あるけれど、かなり良く出来た作品だとは思う。結構楽しめたことは確かだ。ミステリに関して私が高く評価する本というのはかなり少ない(大した数を読んでるわけじゃないけど)ので、相対的に見ればこれは大した作品ということになるのかもしれない。
 全体としては、「ちょっと推理小説とは呼べない」という感じのよくある軽めのミステリで、サスペンスを主なスパイスに、古本業界というおかずで読者が飽きるのを防ぎながら、あまり緻密とは言えない謎解きをドラマチックに味わわせるという趣向になっている。こういった図式の作品は数え切れないくらいあって、大抵は謎解きのお粗末さをおかずの部分の情報量とキャラクターや会話の魅力で補えるかどうか勝負になるのだけど、この作品ではそれがちょっと違っていて、謎解きの部分が結構よく出来ている。私が謎を解くつもりで読んでいなかったということもあると思うが、丁度いいタイミング(実際に謎解きがなされる少し前)で「ああ、そうか」となった謎が2つあって、これに関してはかなり楽しめたと言える。安っぽい作品ではメインになったりもする「おかず」部分の古本業界に関する記述も、作者が本職というだけあってなかなかのものだった。ただし、登場人物は主人公を含めどれもこれもありきたりで、全く面白味がない。少しばかり人間ドラマっぽい展開があったり人物の内面描写らしきものがあったりするが、これはどちらもお粗末。
 会話はそれなりに気の利いた部分があるが、軽妙とまでは行かないし、深みがあるわけでもない。この作品は、純粋に筋立てとミステリとサスペンスを(おかずを交えて)楽しむものなのだろう。それだけでもかなり楽しめる、高水準の作品であることは確かだ。

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1997/06/25
『死の蔵書』
ジョン・ダニング著
宮脇孝雄訳
ハヤカワ文庫HM(タ2-1)

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