【本の感想】

『はじめてのSQL<基礎からはじめるデータベース操作>』

 Delphiのマニュアルのデータベース操作のところを読んでいたらちょっと興味がわいたので、SQLの入門書を探してみた。さすがに教科書的な本は色々とあったのだが、「いかにも入門書」という感じのものは本書しか見当たらなかった。『はじめてのホニャララ』なんていうのは最も信用のおけない類のタイトルだが、中身を見たら思ったより良さそうな感じがしたし、今のところあまり本格的に勉強するというつもりもないので、とりあえずという気持ちで買ってみた。結論からいうと、これは大当たり。

 本書は、新たにSQLを知ろうという読者にまず必要になる情報を厳選して、解りやすいように順序立て、一つ一つに実例を示しながら、簡潔に、しかも理路整然と解説してある非常に良質の入門書だ。実行例はAccessの場合とOracleの場合に分けてあり、それぞれソフトに付属のサンプルデータを使った実行結果画面を逐一掲載している。画面例が多く本としても薄い(つまり文字が少ない)というのは最近では粗悪な入門書のステータスになってしまっている感もあるが、本書の場合はそれがしっかりと功を奏している。入門者にとって本当に必要な情報(知識)は何なのかということをしっかりと考えて書かれているからだ。
 初心者向けの入門書というと、読者にとって理解しやすい(つまりは筆者にとって解説しやすい)事柄だけを書き並べて「わかりやすい入門書」を名乗る詐欺のような本がやたらに目に付くが、そういう本はつまり、初心者にとって本当に必要な情報は何なのかという考えを基本としていないからダメなのである。初心者にとって本当に必要な情報は何なのかということは、解説する対象についてかなり深く理解していないと判断することが出来ない。そして、その中に容易には理解しにくいような部分があったら、それをうまくかみ砕いて理解しやすい形で提供するのが、入門書の本来の役割と言えるだろう。そもそも入門書の存在意義であるはずのそれがおろそかにされることが多いのは、書き手にその能力がないからなのか、よく考えずに書いているからなのかは判らないが、とにかくそういったゴミ入門書が非常に多い中で、本書の出来は光っている。
 本書はある程度SQLを知っている読者にはあまり役に立たないだろうし、SQLの全体像を把握できるような鳥瞰的な視点もなく、網羅的な情報もない。しかし、そういった情報を得られる本は他にいくらでもあるのだ。入門書の役割は、そういった一般的な解説書やリファレンスマニュアルなどを読んで普通に理解できる状態まで読者を連れていくことである。そして、本書はその役割を見事に果てしてくれていると思う。
 文字通りのSQL入門者には、文句なくお勧めの一冊。

1997/11/23
『はじめてのSQL<基礎からはじめるデータベース操作>』
萌木尨 著
技術評論社

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