【本の感想】(含ネタバレ)

『水晶のピラミッド』

 島田荘司氏の御手洗潔シリーズ作品。
 いやもうなんだか、好き放題になって来たなというのがまず第一印象。現代における怪物の出現や変死体の発見、古代エジプトにおける少女と王子の物語、そして豪華客船タイタニックの沈没と、読者にしてみれば全く関連性のないストーリーを、冒頭から順繰りに、しかも現代の殺人事件はかなり後回しにして読まされるのだ。もちろんこれらは後でそれなりに関連性を持って来るわけだし、読み手を幻惑する演出というのもわかるのだが、これだけの分量で遠慮会釈もなくそれをやられると、さすがに「おいおい」と思ってしまう。ただし、そこはさすがに島田荘司作品で、「おいおい」と思いながらもグイグイと読まされてしまうところがちょっと悔しかったりもするのだが。

 この作品で最も気になったのは、メインのストーリー(だよね?)であるエジプト島での映画撮影スタッフの話になってから、やたらと記述が詳しく、進行が遅くなって、読んでいてかなりタルい感じがしたこと。確かに、重要でないことまで含めて全てを詳しく記述しておけばこそ、その中に謎解きのヒントとなる情報を変に隠すことなく堂々と紛れ込ませておけるというものだが、それにしてもやはり読んでいてタルかったことは確かなのだ。「この作品、ちょっとばかし無駄に厚いんじゃないの?」とまで思ってしまった。まあそれは、御手洗潔がなかなか登場しないためにイライラして来たという部分もあると思うのだけれど。

↓ ネタバレ ↓

 この作品の謎解きにおける二重底構造は、割とうまく機能していたと思う。回廊内で火を焚くことによってピラミッドがポンプになるという説明で一度は誰もが納得してしまうというのはちょっとアレだし、その奇抜な着想が犯人(?)の意図によるダミーだというのもちょっと納得しがたい(もっと平凡でありがちな解釈こそダミーとしての価値が高いはずだ)が、謎を解き明かす過程の演出が巧かったためか、あまり首を捻らずに読むことが出来た。
 それにしても、エジプト島の海底にわざわざアフリカから遺跡を運んで来て据えつけてあったというのは、さすがに演出過剰のような気がするが。

↑ ネタバレ ↑

1998/11/20
『水晶のピラミッド』
島田荘司 著
講談社文庫(し26-13)

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