【本の感想】

『おもしろくても理科』

 清水義範氏がど素人のために理科を解りやすく、しかも面白おかしく解説し、それに「あの」西原理恵子氏が挿絵をつけているという、ある意味強烈な本。まがりなりにも西原理恵子ファンである私はこの本が最初に刊行された時にその存在を知ったのだが、誰かの文章に西原氏が挿絵(時にはちょっとしたマンガ)をつけるという形態の本は文章の方が犯罪的なまでにつまらないという例ばかり見て来たので、今度もそうなんじゃないかという気がして買わなかった。その本が今度文庫になり、しかも文章を書いているのが先日作品を読んでみてかなり面白かった清水義範氏であることが判明した(って単に私が知らなかっただけだよ)ので、慌てて買って来た。

 率直な感想としては、うーん、イマイチ、かな。
 確かに非常に読みやすく書かれていて、これならどんなに理科が苦手な人でも恐れおののかずに読めるんじゃないかと思える。雰囲気も気さくで、読者を気楽に楽しませようという姿勢がうかがえる。が、どうも私には食い足りない印象が大きい。内容がとても基本的なことばかりで細部には全く突っ込まないため、決して知っていることばかりが書いてあるわけではないのに、どうも知識を得ているという興奮が味わえないのだ。こういう傾向の作品だとどうしてもアイザック・アシモフ氏の科学エッセイと比べてしまうからかもしれないが、全体に情報密度が低いように思える。それなら文章の書き方で笑わせてくれるのかというと、これも今一つそうはなっていない。つまりは少々中途半端な印象ということなのかもしれない。
 ただし、書かれている内容自体はしっかりしていて、頷けることばかりだ。昨今の環境問題というのはあくまでもこれから人類が生きて行く上での問題であって、決して地球自体の問題ではないのだから、「地球にやさしい」などという言い方は非常におこがましいのだ、というような部分などは普段から私が感じていることそのまんまなので、思わず拍手したくなってしまう。
 また、一般的な意味での「真面目」な挿絵を決して描こうとしない西原氏と、それでも真面目に解説を続ける清水氏との掛け合い(見方によっては戦い)も、なかなか見物であることは確かだ。基本的に本文を引き立てる役割を放り出し、「インチキくせー」とかなんとか言って清水氏を散々こきおろし、しまいには挿絵の中から本文を指差して文句をつけちゃったりまでする西原氏と、本文の中で言い訳したり泣きを入れたりする清水氏という構図は、客観的に考えるととんでもないことだ。どうせなら清水氏の側でもっと乗ってしまって、この強烈な構図を活かして強烈な内容の本にしてしまったら面白かったんじゃないか、などと私には思えてしまう。

 そんなわけで、この本は非常に読みやすく、内容もちゃんとしていて、西原氏による付加価値もあるし、それなりに読む価値のある本なんじゃないかと思うが、あんまり「おもしろく」はなかったなあ、うん。

1998/12/17
『おもしろくても理科』
清水義範 著
西原理恵子 え
講談社文庫(し31-15)

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