【本の感想】

『永遠のジャック&ベティ』

 先日来ハマッてしまっている、清水義範氏の短編集。
 表題作は、私にはあまり面白く感じられなかった。いつもながら非常に良く出来たパスティーシュだとは思うし、ラストの雰囲気もいい感じなのだが、どうも変化に欠けていて、インパクトがないような気がする。もっとも、これは私が元ネタの教科書を直接には知らないからなのかもしれない。
 笑わされたのは、『インパクトの瞬間』と『ナサニエルとフローレッタ』。とくに後者の中の「映画レポーター」氏の文章には爆笑させられた。これはとくに強烈なギャグというわけではなくて、あまりにもそれらしく書かれていたからだ。一方『インパクトの瞬間』の方では内容そのものよりも、ひっくり返ったような印象の文章に笑わされた。扱われているネタが、私も実感を伴って知っているものだったということもあるだろう。
 今まで清水義範氏の作品集を数冊読んで、単に「とてもそれらしい」だけでは笑うまで至らないと思っていたのだが、『ナサニエルとフローレッタ』で少々認識を改めさせられた。実際にはこの作品のデフォルメもかなりぶっ飛んだものなのでやはり一概には言えないと思うけれど、ちょっと新鮮に感じたことは確かだ。一方で『大江戸花見侍』は実にもって素晴らしくそれらしいのだが、あまり面白くはなかった。
 そうして考えてみると、パスティーシュというのは読む人によって物凄く印象が違うものなのだろうという気がして来る。元ネタをどれだけ知っているかという要因が大きいことはもちろんだが、知っていたとしてもそれに対してどう感じているかで、パスティーシュを読んだ時の印象がかけ離れたものになるだろうと思うのだ。だから、私が大いに笑って傑作だと思った作品があったとしても、それはその作品が他よりも優れているというわけではなく、たまたま私に合っていたということなのかもしれない。逆に言えば、私があまり面白くないと感じた作品を傑作だと感じる人もいるだろうし、その方が多数派ということもあり得る。
 だとしたら、パスティーシュの感想を書いて公開するということはかなり意味が薄いんじゃないかと思えて来るのだが、よく考えたら私がこうして戯れ言を書いて公開していること自体に意味なんてほとんどないのだから、今さら問題はないのであった。いやー、良かった良かった。

1998/12/21
『永遠のジャック&ベティ』
清水義範 著
講談社文庫(し31-4)

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