【本の感想】

『フロスト日和』

 ほんの一週間前に書いた『クリスマスのフロスト』の感想では「そのうち」とか言っておきながら、書店で見かけたそのままの勢いで、早速続編たるこの本を買って来て読んでしまった。どうも私は、基本的にシリーズものに弱いたちなのかもしれない。

 この作品は、二作目にして既にシリーズものとしてかなり堂に入っている。つまり、前作の雰囲気と基本的なパターンをそのままに、味つけを少々エスカレートさせてあるというわけだ。もちろんフロスト警部の人間臭いキャラクターは健在。雪崩のように押し寄せて来る雑多な事件が、やがてそれぞれにバッチリと結びついたりちょっとだけ関連したり、はたまた全く関係なかったりしつつ進んで行く、という図式も相変わらず(どうやらこうした趣向の作品を「モジュラー型警察小説」と呼ぶらしい。何でも型にはめてラベルを貼りたがる人間が、どこにでもいるんだなあ)。今度はそれらの事件の数と「雪崩れ」ぶり、入り組みぶりが前作よりもエスカレートしている。もっとも事件の謎に関して読者が推理する余地がほとんどないことは前作で解っているので、私としては漫然とした姿勢で読んだため、事件がやたら入り組んでいることに対してとくにどうとも思わなかった。

 結局のところ、私はそれなりに楽しんでこの作品を読むことが出来た。だがその一方で、多少の失望も味わった。この作品は、良くも悪くも「二番煎じ」なのだ。つまり、前作を読んだ読者が二作目に対して期待するであろう要素がキチンと用意されている一方、それ以外の要素がなにもない。シリーズものの二作目(以降)というのは多かれ少なかれそういうものだが、ここまで徹底しているのも珍しいと思う。私には既に水戸黄門レベルだと思えた。それはそれで大したものだとは思うのだが、やはりどうしても読み終えて空しさのようなものを感じずにはいられない。
 まず何と言っても残念なのは、フロスト警部以外のキャラクターが前作にも増してつまらないこと。とくに今回新たにフロスト警部の相棒となったウェブスター刑事は、暴力沙汰で降格&左遷の憂き目に遭った若き元警部という非常にパンチを効かせやすそうな設定であるにもかかわらず、それが全く生きていない。もちろん表面上は色々と描いてあるが、結局のところキャラクターとして私には前作のバーナード刑事と区別がつかなかった。これはフロスト警部の同僚全体に言えることで、とくにマレット署長とアレン警部はもっと魅力的に描かれてもいいと思うのだが、どうも表面でフロスト警部と対立するだけのキャラクターになってしまっているような気がする。実にもったいない。

 そう言えば、この作品には前作でフロスト警部の相棒だったバーナード刑事が出て来ない。出て来ないだけでなく全く言及もされない。前作でのフロスト警部の負傷についても言及がない。だからどうというわけでもないのだが、少々拍子抜けしたことは確かだ。もしかして、時系列では前作よりこの作品の方が前になる、なんていう設定になっているのかな、などとつまらない考えが浮かんで来たりもしてしまう。どーでもいいと言えばどーでもいいのだけれど、やっぱりちょっと気になるかな。

 どうやら、1995年の時点でフロスト警部シリーズは既に4作目まで書かれているらしい。私としては、3作目以降が翻訳された時にどうするかが大問題だ。せっかくだから読んでみたい気持ちがあることは確かだが、今回のように「そこそこ楽しい」だけで終わる可能性が高いのなら、もっと他の本を読みたいとも思う。…いや、これはあまり正直な表現じゃないな。私としては、「そこそこ楽しいだけ」であることが判っている本を読むことは「そこそこ楽しい」わけだから非常に惹かれるのだが、そんなことをしている暇があったらもっと実りのある(可能性のある)ことをするべきだという声が頭の隅の方で常に囁いてもいる、というところか。
 それだけ、この『フロスト日和』は私にとって「そこそこに楽しく」「実りのない」作品だったのだ。この作品も前作に続いて非常に人気が高いという事実もまた、余計に私の思いを複雑にする。…うーむむむ。

1998/12/30
『フロスト日和』
R・D・ウィングフィールド 著
芹沢恵 訳
創元推理文庫(Mウ8-2)

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