【本の感想】

『深夜の弁明』

 非常に雑多な作品集。パスティーシュもあるし、そうでもない作品もあるし、ごくごく普通のショートショートもあるし、もしやこれはシリーズ化を狙っていたんでは、などと思える作品まである。だからということもあると思うが、全体にかなり粗い印象を受け、もしやこれはかなり初期の作品群なのでは、とも思ったのだが、どうやら『蕎麦ときしめん』などよりは後のものらしい。

 正直に言って、普通のショートショートなどはあまり面白いとは思えなかった。印象に残ったのはやはりパスティーシュの方だ。「欠目戸街道を辿る」はかなり皮肉のキツイ部類の作品に思えて、私は好きなのだが、読んで怒る人もいるんじゃないかと余計な心配をしてしまったりもした。
 表題作の「深夜の弁明」は、どうもピンと来なかった。この作品はかなりあちこちで引き合いに出されているので結構期待していたのだが、拍子抜けという感じ。もしかするとこれはネタがネタだけに作家や編集者にとっては物凄く面白いのだけど、それ以外の読者にとってはそうでもないんじゃないか、などと考えてしまう。
 「解説者たち」は、他のいくつもの「解説ネタ」の作品の原形が、やや不器用にストレートな形で示されているような作品。これはこれで充分に面白い一つの作品になっているのだが、なるほどじっくりと料理される前はこういう状態だったのか、という印象も否めない。順番がはっきりわからないのだが、この作品はやはり他の「解説ネタ」作品群より前に書かれたものなんだろうなあ。

1999/01/14
『深夜の弁明』
清水義範 著
講談社文庫(し31-5)

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