【本の感想】

『標準HTML4』

 タイトルからしてかなり凄いこの本、表紙のキャプションの上には「W3C」のロゴまで付いている。これは強烈だ。内容的には看板に偽りなく、HTML4に関してのある意味で「完全な」解説書である。しかし、そう聞いて連想するマニアックなリファレンスマニュアルや仕様書のような本ではない。この本は、HTML4の解説書であると同時に、HTMLというもの自体の解説書でもあり、更にはWWWの大まかな解説書でもある。そういう意味で、この本は「完全」なのだ。
 この本の著者たちは、実際にHTML4の設計と定義に深く関った人を中心に構成されているらしい。だからということなのか、この本では単にHTMLエレメントの定義や使い方を解説するだけでなく、一々その背景や生い立ちのようなものが説明されている。これは非常に興味深い内容だし、HTMLというものをキチンと理解するためには必要な情報でもあると思うが、一般的な書籍からはまず得られないものだ。それだけでもこの本は貴重な存在だと思える。また、上記のようにWWWやHTMLとはどんなものかということまで含めた包括的な説明がなされているため、何も知らない人でもこの本を最初から読んで行けば大体のところが理解出来るというつくりになっている。これは実に大したことだと思う。
 だとしたらこの本さえあればWWWからHTML4まで全てがバッチリOKなのかというと、さすがにそううまくは行かないだろう。この本の解説は、難解な技術書のような書き方とはかけ離れたかなりフレンドリーなものであるにもかかわらず、あまり解りやすくはない。HTMLの全ての要素に関して同じような調子で解説されているため、「とくにここがポイント」だとか「この辺が誤解されやすいから詳しく」とかいう配慮がほとんどなされていない。また、既に巷で一般的になっているエレメントも、まだ対応しているブラウザが存在しないエレメントも同じように解説されている。「ぼくのNetscapeでこれが使えるのかな」という疑問を解決するには、自分で実際に試してみるしかないということだ。つまり、この本の解説はHTML4というものをちゃんと理解したい人には向いているが、とにかく実際に使いたいのだという人には向いていないのだと思う。個人的には自分が使うものは極力キチンと理解するべきだと思うので、この本は「良い本」だと思うのだが、とにかくHTML4を実践的に使えるようになりたいのだという人にとっては「使えない本」なのかもしれない。
 また、この本の翻訳は「原書の雰囲気をなるべく残す」という方針でなされているそうで、実際文章にしろレイアウトの雰囲気にしろ、実に「翻訳書」然としている。確かに原書の雰囲気をかなり感じることが出来るし、この本ではそもそも仕様の背後にある思想や心意気のようなものが大切にされているので、それを直接伝えるという意味では適切な措置なのだろう。しかし、単純に解説書としての読みやすさ、解りやすさという観点からは、これがマイナス点であることも確かだと思う。これはジレンマだ。

 この本は、WWWとHTML4の解説書としての完全性という希有な長所と、単純なHTML4の解説書としての実用性の不足という短所を、どちらもかなりはっきりと持っている。読む人のニーズによって評価が明確に別れるだろう。だが最後にもう一度言っておくと、私は個人的にこの本をとても良い本だと思う。

1999/11/18
『標準HTML4』
デーブ・ラゲット/ジェニー・ラム/イアン・アレキサンダー/マイケル・クミーク 著
滝沢徹/牧野祐子 訳
発行:アジソン・ウェスレイ・パブリッシャーズ・ジャパン
発売:星雲社

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