【本の感想】

『伝道の書に捧げる薔薇』

 ヒューゴー賞、ネビュラ賞を何度も受賞しているSF作家、ロジャー・ゼラズニイ氏が1960年代中盤までに発表した中短編15作を収録した本。

 改めて思い出してみると、私はずいぶんとSFから遠ざかっているようだ。とくに理由があるわけではないのだけれど、ここ数年で読んだSF作品は異様に少ない。だからなのかはよく判らないが、この本を読んでいて、「SFって、こんなだっけ?」という妙な違和感を何度か感じた。とくに、ネビュラ賞受賞作である巻頭の「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」にはクエスチョンマークが沢山。「なんだかハリウッド映画みたいな、凄く安易なプロットじゃない?」「これがネビュラ賞受賞?」「そもそもこの作品、SFである必要あるの?」などなど。
 ただし、そういった感想を全ての作品に対して持ったわけではない。この本に収録されている作品群は、全体として見るとかなりバラエティに富んでいるというか、題材も内容もテーマも長さも、そして文体も、実に様々だ。かなりテーマ性の高い作品から、冒険活劇のような作品、ペシミスティックな皮肉を効かせた作品、ちょっとした寓話的な作品、一発ジョークのような作品…。それぞれにクオリティは高いし、読者としては色々読めて面白いのだが、当然「作者」に対する印象は薄くなり、感想は単純に個々の作品に対してのものだけになってしまう。それがまた、かなりバラバラなのだ。個人的に気に入ったのは、表題作でもある「伝道の書に捧げる薔薇」、かなり突き抜けたコメディ「重要美術品」、センチメンタルだが力強い「ルシファー」あたり。
 ちょっと感じたのは、大物釣りを題材とする「その顔は…」や登山を題材とする「この死すべき山」をはじめ、それほどはっきりとした題材を扱った作品でないものにもある、かなり極端に男性的な視点だ。それが即ち悪いことであるとか、作品の質を落とすとかは思わないが、こういう作品群がある時期のSF界の主流を占めていたのだとすれば、その後フェミニズム指向の作品が大流行したりしたのも不思議はないな、と納得はする。

 何にしても、かなり楽しんで読めたことは確かだし、このバラエティの豊かさは特筆ものという気もする。私のSFに対するリハビリとしては丁度いい本だったかもしれない。ただ、上記のように作者に対する印象が非常に薄かったのはちょっと残念なので、他の本も試してみようかと思う。

2000/05/24
『伝道の書に捧げる薔薇』
ロジャー・ゼラズニイ 著
浅倉久志/峯岸久 訳
ハヤカワ文庫(SFセ2-3)

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