【本の感想】

『時間飛行士へのささやかな贈物』

 ディック傑作集2。この本の解説を読んでようやく解ったのだが、原書の『THE BEST OF PHILIP K. DICK』を翻訳して二分冊にしたのがディック傑作集1『パーキー・パットの日々』とディック傑作集2であるこの本なのだそうだ。原書がディック作品のベスト盤的な本であることは確からしい。そこにはほぼ書かれた年代順に作品が収められていて、その前半が『パーキー…』に、後半がこの本になったわけだ。
 …じゃあ、既に出ている「ディック傑作集3」は何なんだろう?

 ともあれ、この本もなかなか楽しめた。主に1950年代から60年代に書かれた作品が並んでいて、内容的にも実にそれらしいと言うか、読み終えた後に「ああ、SF短編集を読んだなあ」と思えるような感覚だ。まあ、これは「そういうの」が好きな人にしか価値のないことなのだろうとは思う。ただ、サイバーパンクを代表とする様々な新しいSF作品が出現し親しまれている現在にあっても、一般的に「SF」という言葉から連想されるのは、ここに収められているような1950年代から60年代の作品の世界なのじゃないかと思う。少なくとも、私の中ではそうだ。必ずしもそれが良いことだとは言えないけれど。
 この本には、私にとっては今一つピンと来ない、けれども実にディック作品らしいとも思える「父祖の信仰」のような作品が収められていたりもするが、その一方でネタとしてはかなりベタベタだと思えるような作品もあって、そのミスマッチ感覚がちょっと面白い。まあこれは、次にどんな作品が来るのか予測がつかないという、単純なバラエティの面白さなのかもしれないが。
 そう言えば、この本の最後には「著者による追想」と題した、各作品への著者のコメントが収録されている。これは原書に収録されている全作品に対するもので、要するに訳書では『パーキー…』の方に収録されている作品へのコメントも含まれているわけだ。こういう構成になっている本を平気でそのまま二分冊にしてしまう出版社はいい度胸だと思うのだが、実際には片方だけ買ってしまうような読者はほとんどいないのだろうか…?

2000/07/04
『時間飛行士へのささやかな贈物』
フィリップ・K・ディック 著
浅倉久志/他 訳
ハヤカワ文庫SF911(テ1-10)

to TopPage E-Mail