【本の感想】

『Linuxメンテナンスブック』

 セカンドマシンにLinuxを入れてみた。UNIX系のOSにマトモに触るのはこれが初めてだ。当然ながら、何が何やらサッパリ解らない。それでも最近のディストリビューションはインストーラも親切で、とりあえずX Window Systemが起動するところまでほぼ全自動で済ませてくれる。Xが起動してしまえばGUI操作のファイルマネージャやらテキストエディタやらが用意されているので、とりあえずあちこちのディレクトリを見て回ったり、設定ファイルをいじってみたりは出来る。各種の設定も予め形が用意されているので、勘と推理である程度何とかなる。そうこうしているうちに、とりあえずSambaとApacheが動くようになった。メインマシンのWindows2000から共有ディレクトリが見えるようになり、WWWブラウザからCGIプログラムを動かすことも出来るようになった。私がLinuxを導入することにした直接の動機は自作CGIプログラムの動作テストのためなので、とりあえず最低限の目標は達成したわけだ。
 しかし、LinuxをはじめとするPC-UNIXやネットワークサーバの構築・管理の話題が花盛りの昨今、私としてもLinux自体に大いに興味がある。となると、書籍を買って勉強しなくてはならない。というわけで、例によってまずはオライリーの本を物色に行ったのだが、これがもう当然と言うか案の定と言うか、分厚くてお高い本がズラリと並んでいる。内容をざっと見てみると、これがまた、どうも私のニーズには合わないようなのだ。私としては、とりあえずviやEmacsの使い方とかは後回しでいいし、Perlの基本については他の本で勉強済みだし、要するにLinuxそれ自体の大雑把な仕組みとか起動プロセスの実際とか、デバイスドライバの組み込み方とか、各ディレクトリの役割とか、システム管理の基本とか、そういった情報を入門者向けに解説している本が欲しいのだが、どうもそれが見つからないのだ。もしかすると、各ディストリビューションで違う部分が大きいのでそういう解説はしにくいのかもしれないが、それならそれで、そういう厄介さも含めて解説して欲しいと私は思うのだが。
 そんな中で、比較的私のニーズに合っていそうな内容だと思えたのがこの本だった。

 読んでみると、確かに内容的には私の求めているものと概ね合致している。…が、どうもイマイチしっくり来ないものが残る。
 扱われている項目の方向性は、ほぼ私が求めているものそのままだ。カーネルの実体の在り処とコンフィグレーション・再構築について。ローダブルモジュールについて。スタート時の動作とランレベルについて。デバイスのメンテナンスと新デバイスの追加方法、などなど。文章は概ね親切かつ明快で、読みやすい。解説書としてのレベルは高い方だと思う。しかし、解説の完全性にかなりムラがあるのが非常に気になる。ハードレベルの基本事項から妙に詳しく解説している部分があるかと思えば、「こうやってこうやるとこれが出来ます」的に単に「目的の実現方法」の説明で終わってしまっている部分も多い。その過程で使われるコマンドがどういう目的のものなのか、付加されるオプションは何を意味するのか、どうしてそれを付加しなくてはいけないのかなどが全く説明されていなかったりもする。そういう情報はmanページなどで参照すればいいという考え方なのかもしれないが、私としてはこういう書き方をされるとどうしても「一晩で出来るなんとか」系の詐欺本と同じようないい加減な姿勢で書いているんじゃないかと疑いたくなってしまう。もちろん、この本の全てがそういう調子というわけではないし、むしろ非常に詳しくて親切な解説もある。個人的にも役立った部分は多い。だからまあ、この本を本当に詐欺本と一緒にするつもりはないのだが、ところどころに「これ、ちょっと手抜きなんじゃないの?」と思える部分があることは確かで、全体としてかなり食い足りない印象が残ったことは否めない。内容の方向性が私の求めるものにかなり近かったから、余計に情報の不完全性が気になったという部分はあると思うのだが。

2000/09/03
『Linuxメンテナンスブック』
川井義治/米田聡 著
ソフトバンク パブリッシング

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