【映画の感想】

『ジャングル大帝』
★★★

 うーん…、古い。
 『ジャングル大帝』という作品のドラマ性はまだ色褪せてはいないと思うのだけど、この映画はどうも、演出、脚本、画面作りの全てにおいて非常にオーソドックスで、新鮮味と面白味に欠ける。ところどころにCGを取り入れたりして映像的にもそれなりに頑張っているのだが、それでも基本的にセンスが古いように思う。全く新しさがなくても納得させられてしまうクオリティを持った作品というのも中にはあるが、この作品にはそこまでのパワーは感じられない。結局、この映画は「悲劇的なラストを原作通りにアニメ化してみたかった」というだけの作品なんじゃないか、という気がしてしまう。それはそれで、一見の価値のある試みだとは思うのだが。
 もう一つ思うのは、『ジャングル大帝』の悲劇的なラストで感動を呼ぶには、2時間枠の映画1本では不足じゃないかということ。『ジャングル大帝』は大河ドラマなのだ。主人公レオの波乱の一生を最初から最後まで描き、父であるパンジャ、息子であるルネとの対比を通して「命のつながり」を語るのが『ジャングル大帝』のメインテーマだ(と私は思う)。それが、この映画ではレオに子供が産まれたところから始まっているので、レオについての描き込みが大幅に不足している。2時間でラストまで行くためにはこうするしかないのだろうが、これではルネとレオの少年時代を対比することが出来ないし、晩年(?)のレオとパンジャを対比することも出来ない。また、なんとかジャングルを治めるべく奮闘する青年時代のレオが描かれていないので、いきなり「偉大なジャングルの王」と言われてもピンと来ず、その死に心を動かされにくくもなる。やはり、無理があるような気がするのだ。
 無理があると言えば、同じ原因でそもそもの設定にも無理が生じてしまっている。この映画ではレオはいきなりジャングルの王として登場するため、設定としても「単にジャングルの王」となってしまっている。そのせいで、「白いライオン」という設定はほとんど意味が失われているし、「人間の言葉を解する」という設定はこの映画ではウヤムヤに消し去られている。この辺はやはり最初からキチンとストーリーを追わないとうまく描けない部分なのだと思うが、少々中途半端な印象になってしまって残念だった。
 それでも、この映画は少なくとも『ジャングル大帝』のイメージを崩すほどにヒドイ出来ではないし、逆に「やっぱり『ジャングル大帝』はイイよなあ」と思わせてくれたことも確かだ。もう一度、ちゃんと原作を読んでみたくなった。

1997/08/31
『ジャングル大帝』
原作:手塚治虫
監督・脚本:竹内啓雄
脚本:手塚プロダクション文芸部
作画監督:杉野昭夫
配給:松竹

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