【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『ジョー・ブラックをよろしく』
★★★★☆

 意外なほど良かった。
 女性に人気のブラッド・ピットを主役に立てた、かなりファンタジックでストレートな恋愛映画ということで、正直言ってちょっとヒキながら観始めたのだが、逆にどんどん引き込まれてしまった。確かに設定からして非常に強引で作為的だし、ストーリー展開やおおまかな演出の方向性もありがちで、かつあざとい。一歩間違うと非常に下衆な仕上がりになってしまいそうなところだが、この作品にはそれらを許せてしまう理由が色々とある。
 何と言っても大きいのは、全体から感じられる品の良さ。とにかく画面の作り方が上品で、その効果を脚本と音楽がさらに高めている。ベッドシーンまで妙に上品な仕上がりになっているのには、やや狙い過ぎかなと思いながらも、正直ちょっと驚いた。
 主要なキャラクターが、それぞれ実にうまく描かれているところも好印象だ。設定としてはかなり詰め込んであると思うのだけど、それを強引に説明したりはせず、むしろ抑えたセリフと演出で伝えて行くというやり方が、ちゃんと機能している。これはかなり凄いことかもしれない。直接的なセリフをあまり使わず、沈黙や仕草に積極的に意味を持たせて、役者の演技によって背後にある設定まで含めた色々なことを伝えてくれるのだ。この作品の場合はそれが微妙な芸術性のようなものではなく、解りやすい演出として実現されているところがエライと私は思う。逆に考えると、そういうやり方だからあまり複雑なストーリーや目新しい脚色は出来なかったのかもしれないな、と納得してしまう。それでもこれがキチンとした効果を上げているため、役者の演技の魅力が大きく引き出され、いきおいキャラクターへの感情移入も促進される。
 そんなわけで、ブラッド・ピットが凄くカッコよく見えるのだけれど、その一方で他の役者(キャラクター)たちも実に魅力的なのだ。とくにアンソニー・ホプキンス扮する「お父さん」はかなり「凄い人」という設定なのだが、ちゃんとそう見えるからやっぱり凄い。作品の中でもブラッド・ピットと同じくらいの扱いというか、どちらかというとこっちが主人公なんじゃないかと思えるような構成で、グイグイ引っ張ってくれる。ヒロインもキャラクターにピッタリはまっているし、その他の人々もそれぞれにいい味を出している。…なるほど、してみるとこの作品は、役者の演技の魅力を、上品で巧みな演出をオカズにして味わう映画なのかもしれない。
 ストーリーに関しては、序盤で大体の設定が明らかになった時点でラストの展開まで予想がついてしまう程度のものではある。ただ、見ているうちに役者の演技と上品な演出にどんどん引き込まれて行ったため、やがて「もしかするとこのまま予想通りには行かないかもしれないぞ」という気になって来てしまったりもした。だが実際終わってみるとほぼ全てがやっぱり最初の予想通りで、正直言ってちょっと拍子抜けではあった。ここまで突飛な設定でなければ、もう少し自然に納得出来たのじゃないかとも思えて、その点は少々残念だ。

 聞くところによると、この作品は舞台劇の映画化のそのまたリメイクなのだそうだが、例によって私はそういうことは全く気にしないようにしている。はっきりした元ネタがあるとは言っても、きっと制作を重ねる過程で全く違うものになっているだろうし、だからどうだとか考え始めると「研究」になってしまって楽しめないからだ。
 とにかく私はこの作品がかなり気に入った。単純な恋愛映画と聞くと敬遠してしまうような人にも、ちょっと観てみてもらいたいと思う。…ただちょっと心配なのは、このファンタジックな設定自体に拒否反応を示す人もかなりいそうに思えることだ。そんなところに引っかかってせっかくの中身を楽しめないというのは実にもったいない話だが、対象は違ってもそれに近いことは誰にでも割とあるものだし、難しいところではある。うーむ。

1999/11/13
『ジョー・ブラックをよろしく』
監督:マーティン・ブレスト
脚本:ボー・ゴールドマン

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