【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『トゥルーマン・ショー』
★★

 …これだけ?
 観終わっての率直な感想は、まずそれだった。「これだけ?これで終わり?」

 「自分が今まで信じて生活して来たものや人、それら全てが偽りだった」という題材は、既に色々な作品で使い古された「古典的」とも言えるネタだ。この作品ではそれをTV番組と結びつけたところに特徴があると言えばあるが、それよりもむしろ、この難しくて重い題材を敢えて取り上げて、「真面目な」エンターテイメント作品とするべく正面から取り組んだところに意義があったと私は思う。
 そして、さあどうなるのかな、と思って観ていたら、どうにもならずに終わってしまった。そんな印象なのだ。
 各所のディテールや演出は、よく出来ている。役者の演技もしっかりしている。だから、それなりに引き込まれて、「どうなるのかな?」と観ていたら、どうにもならなかった。要するに、ストーリーがないのだ。結果的に、プロットとしては上記の古典的な設定が全てだったと言っていい。30秒のスポット予告を見れば理解出来る設定が、プロットの全てなのだ。これは正直驚いた。それではキャラクター中心の作品なのかというと、こちらもあまりしっかり描かれているとは言い難い。主人公にベットリと感情移入出来るわけではないし、他のキャラクターからはほとんど心情も伝わって来ない。ではTVやマスコミ、そしてそれをはやし立てる大衆を図式として扱ったメッセージ性がメインなのかというと、そちらも非常にインパクトが薄い。結局のところ、この作品は主人公がおかれている突飛な設定を、確かな演出と演技で描いたというだけのものだったのだ。

 映画が終わってスタッフロールが出て来た時、私はかなり驚いた。これからがこの映画の本番だと思っていたからだ。それほどにこの作品は何もないまま終わってしまったのだが、逆に考えれば私は観始めてからそれほど時間が経っていることに気付かなかったわけで、それだけ画面に引き込まれて観ていたとも言える。この作品がある意味で良く出来ていることは、確かなのだろう。
 でも、やはり私は気に入らない。…というか、非常にもったいない気がするのだ。これだけの作品を仕上げる技術と労力があるのなら、もう一歩、もう一つ何かを見せて欲しいと私は思う。観客を画面に引き込むことが出来るというのはそれだけでかなり凄いことではあるけれど、観終わった観客の心に何も残らないのでは、やはり悲しいと思うのだ。

1999/12/05
『トゥルーマン・ショー』
監督:ピーター・ウィアー
脚本:アンドリュー・ニコル
撮影:ピーター・ビジウ

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