【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『インビジブル』
★★

(ネタバレ分割していないけど、ややネタバレ気味かも。未見の人、ごめん。)

 …うーん、惜しい。もっと面白くなる要素を沢山持っているのに、それらが何一つ開花しないまま、結果としては単にありがちなエンターテイメント映画になってしまったという感じ。
 まず、特撮というかCG合成というか、とにかくヴィジュアル面の出来はなかなかのものだと思う。とくに「透明化」やその逆の描写は、よく考えるとかなりトンデモではあるものの、絵的なわかりやすさがうまく表現されていて、イイ感じに仕上がっている。邪推すれば、制作者はこれがこの作品における最大のウリとして充分なものになっているので、あとはソツなく仕上げればそれなりの評価を得られるはずだ、と思い込んでしまったのじゃないかという気がしたりもする。しかし、私に言わせれば、そういうモノを作品のウリに出来る時代はとっくに終わっている。今時では、それは映画の演出のオカズの一つでしかないのだ。もちろん、それでも出来が良ければプラス要因であることは確かだけれど。
 結果的に活かされなかった「面白くなりそうな要素」としては第一に、主人公のキャラクターだ。かなりイッちゃっていながら人間味も見せ、それなりに感情移入を誘えるというかなり希有な主人公像が半分出来上がっていると思うのだが、それを作り上げたところでうまく活用して観客の気持ちを動かそうという展開や演出が全くないし、終盤には完全に「単なるワルモノ」になってしまう。勿体ない。
 第二には、大時代な「透明人間街にあらわる」的な雰囲気と面白味。新しめの映画で言えば『マスク』とか『バットマン』に通じるような、一種突き抜けた頽廃ムードから出るカタルシスのようなものを醸し出してくれるのかと、中盤の展開からは一瞬期待したのだが、それも全くなかった。せっかく今の時代にわざわざ「透明人間」を出現させたのに、勿体ない。
 そして第三は、終盤のサスペンス性。なんたって透明人間で、しかも天才的頭脳の持ち主なんだから、放っておいても『エイリアン』よりずっと見つかりにくく手ごわいはずで、ずっと緊迫した「知恵比べ」や「隠れんぼ」が演出出来るはずなのに、それが全くなされず、単に『エイリアン』の焼き直しを見せられたのでは、肩透かしとしか感じられない。印象としてはむしろ「なんじゃそりゃ」である。全く勿体ない。

 ともあれ、『蠅男の恐怖』で始まったストーリーが途中で『バットマン』(の悪役?)方面へ行くようなフェイントを見せつつ結局『エイリアン』に雪崩れ込むという、展開としてはちょっと予測しにくい大技が決まったとも言えるのだが、仕上がりが元ネタから一歩も前進していないのでは、単に中身の薄い寄せ集めにしか見えない。前半の展開や主人公のキャラクターづくりが比較的丁寧だっただけに、それを活かして後半も丁寧に作って欲しかったと、個人的には強く思う。それではエンターテイメント作品としてインパクトが薄いということであれば、最後の最後でハジけさせるとか、色々と手はあると思うのだが。いやいや、本当に勿体ない。

2002/06/03
『インビジブル』
2000年 アメリカ作品
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
製作:アラン・マーシャル/ダグラス・ウィック
製作総指揮:マリオン・ローゼンバーグ
原案:ゲイリー・スコット・トンプソン/アンドリュー・W・マーロウ
脚本:アンドリュー・W・マーロウ
出演:ケヴィン・ベーコン/エリザベス・シュー/ジョシュ・ブローリン/キム・ディケンズ

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